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古事記☆新解釈【46】木から虫へ、虫から糸へ/漢字の錬金術から読み解く天石屋戸の新ストーリー

漢字の錬金術アイキャッチ 新解釈『古事記』
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本日のトーク内容

以下の内容は、放送内容を加筆修正しています。

皆さんこんにちは、natanです。さあ、始まりました「ろじろじラジオチャンネル」。本日もよろしくお願いします。

前回は、高天原では蛾の幼虫に代表される害虫が大量発生していて、それをアメウズメが捕食するという、アメウズメの別の姿とその役割についてお話をさせていただきました。

そして新たに、高天原で重要な役割を演じているその蛾が、じつは漢字の構造とも深く関わっていることがわかり、またその発見によって天石屋戸シーンが描く壮大で美しいストーリーも読み取れたので、今日はその件についてお話したいと思います。

前回のおさらい

まずは、前回のおさらいから。前回、アメウズメは害虫または害獣駆除の神様で、その視点で高天原のシーンを読むと、スサノヲはそこで大発生した蛾の幼虫(スズメガ)であり、反対にアメウズメはその害虫を捕食して世界の秩序を回復させる小鳥(スズメ)であることがわかり、その結果、高天原のシーンは自然界における食物連鎖を描いていることがわかった、というお話をさせていただきました。

アメウズメについて④

前回の内容は、蛾は高天原に発生した害虫だとして、蛾のネガティブな側面をお話しましたが、じつは蛾にもポジティブな側面があり、それがアマテラスの成長と深く関わっています。

完全変態を行う虫について

蛾が…というよりは、正確には、蛾に代表されるような、幼虫から成虫へと完全変態を行う虫全般の生態が関わっています。完全変態とは、幼虫から蛹、そして成虫へと変態していく虫のライフステージのことで、とくに蛾や蝶、クワガタやカブトムシなどに見られるように、繭化や蛹化するのが特徴です。

そういった虫がどのようにアマテラスの成長と関わっているかというと、面白いことに、それは漢字の構造から見ていくと見えてくるんですね。

完全変態について

アマテラスの成長と虫の関係性について

アメウズメの呪術とは?

少し遠回りなお話からはじめますが…、アマテラスが天石屋戸にこもったとき、なぜかアメウズメは空の桶を伏せました。なぜ桶を伏せたかというと、古事記解説第41回のとき、古事記と親和性の高いインディアンの風習の中に、日食が起こったとき太陽は血を流すとされ、その血が器に入ると災いが起こるから、それを防ぐためにすべての器を伏せるという風習があることをご紹介しました。

そして、その太陽が血を流す日食を、古事記はアマテラスの初めての月経(初潮)として扱っていて、だからアメウズメも空の桶を伏せたんですね。そして今回、その伏せられた桶が先ほど触れた完全変態を遂げる虫と深く関わっていることがわかりました。

完全変態をする幼虫は、蛹になるために自らの殻の中にこもります。そして、アマテラスも初めての月経によって天石屋戸にこもりました(いわゆる月経小屋にこもるということ)。そんなアマテラスに対してアメウズメが行ったのは、空の桶を伏せてその上でドンドコ踊ること。なぜ彼女は踊ったかというと、アマテラスに呪術をかけ、一人前の女神に変身させるためです。

その呪術はかなり特殊なもので、高天原のシーン全体が蛾の大量発生を描いていること、また空の桶が登場すること、さらには少女が女神になることなど、そういったキーワードを元にそれをある二つの漢字で表してみたところ、呪術の特殊性と虫との関係性が見えてきました。

完全変態について②

漢字の錬金術①:桶から蛹へ

それがこちら。「桶」が「蛹」になる。つまり、アメウズメの呪術とは、漢字の錬金術だったんです。この発見によって私は、スサノヲだけでなく、アマテラスも蛾に似た性質を持っていて、かつ完全変態を行う虫全般を象徴する存在でもあったという考えに至りました。

しかも、スサノヲの場合は害虫の側面が強かったですが、アマテラスの場合はどうやら益虫の側面があるっぽい。その益虫アマテラスを通して天石屋戸シーンを再度眺めてみたところ、このようなストーリーが読み取れました。

桶から蛹へ①

天石屋戸の新ストーリー

スサノヲの暴挙によってアマテラスが天石屋戸にこもったとき、判断を担う思金神は彼女を外に出すためにはどうすれば良いかを考えました。そして、彼女の中に眠っている完全変態の力を目覚めさせて、彼女を蛹に変身させればいいと考えた。そうすれば、蛹は成虫になれば必ず外に出てくるように、アマテラスも時がきたら自ら外に出てくるはずだと思ったからです。

そこで、命を受けたアメウズメが空の桶を伏せてその上で踊り、呪術をかけ、「桶」を「蛹」に変えた。イメージ的には、高天原に群がる虫を桶の中に集めて、逆さにしてフタをする感じでしょうか?

その呪術によって晴れてアマテラスは蛹となり、そして殻の中でひと時を過ごした後、外の賑やかさが気になって、思金神の思惑通り、自ら天石屋戸を開いた。つまり、成虫という一人前の女神になって外に出てきたというお話です。そういう話なら、大人の女神になる過程の中に初潮が介在していることも頷けます。

桶から蛹へ②

なぜ木偏が虫偏になるのか?

しかし、ここでちょっとした疑問が湧いてきます。桶と蛹、共につくりの部分は「よう」であり、その意味は「おけ」「鈴形の鐘」「花のひらくさま」「おどる」などです。つくりの部分は、その象形、そしてアマテラスやアメウズメに生じた現象ということで、意味も共に共通しているのでそこは理解できますが、しかし呪術だとは言え、桶の木偏が蛹の虫偏になるというのは、どう解釈すればよいのでしょうか?木がどうなったら虫になるのでしょうか?

これについてもあれこれ思考してみたところ、この漢字の錬金術を成り立たせている存在がいたことを発見しました。それが木を腐らせる菌、白色腐朽菌です。

この菌については古事記解説第42回のとき、サラリと触れました。天石屋戸内でアマテラスは腐りかけていて、そこでは白色腐朽菌の類が彼女に作用しているだろうと。そのときはなぜそこに白色腐朽菌が出てくるのか、その詳細をお伝えできずにいましたが、今日ようやくお話できます。

白色腐朽菌は、木材を腐らせる力を持っていて、それと同時に、完全変態を行う幼虫が食べるご飯も提供します。クワガタを例にあげると、クワガタの幼虫は白色腐朽菌によって腐りかけている木の中で、木材の死んでいる部分(細胞壁)などを食べて成長していきます。クワガタを人工的に飼育する際は、菌糸ビンというキノコを栽培するときに用いるものと同様のもので飼育していきます。そして幼虫はその後、蛹化して羽化します。

つまり、幼虫から蛹、成虫へと変態するためには菌の力が必要で、かつその変態には「食べる」という行為が欠かせないんですね。菌を介して行われる「食べること」、それこそが至高の錬金術だった。だから、高天原のシーンは全体を通して「食べること」に焦点を当てて語っていたのだと思います。

白色腐朽菌について

となると、アマテラスがこもった天石屋戸とは、洞窟のような場所をイメージしがちですが、じつは木の幹にあいた穴、もしくは木の根元のことでもあった、と言えるかもしれませんね。天石屋戸と並行して出てくる天香山。そこに生える木々、そして根こそぎ抜かれた榊など、それらが天石屋戸が木に関係していることを示唆していたとするならば、話が繋がるなあと思いませんか?

きっと、天石屋戸内(木の中)にこもったアマテラスは腐った木をむしゃむしゃ食べながら、成虫になるまでの大事なひと時をそこで過ごしていたのかもしれません。腐ったものを食べるというのは母イザナミもそうだったので、改めてこのシーンに黄泉国とのリンクを感じます。

以上のことから、なぜ桶の木偏が蛹の虫偏になるのかというと、その錬金術を成り立たせている存在(菌)がいて、その菌の力によって食べることが行われた結果、木が虫になったと私は考えました。

桶から蛹へ③

ちなみに、蛹化した状態は外部からの衝撃に弱く、防御力もゼロだそうです。言われてみれば、アマテラスが天石屋戸にこもったとき、つまり彼女が蛹でいる間、高天原も害虫の大群に襲われていましたよね。蛹化したアマテラスという視点でこのシーンを読むと、「だから世界に災いが起こったんだ!」という、また違った解釈ができて面白いですね。

漢字の錬金術②:蠅から繩へ

さて、これで天石屋戸の解説は一件落着、と言いたいところなのですが、この話はまだまだ終わらないのです。なぜなら、もう一つ重要な漢字の錬金術が隠されているからです。

それは、アマテラスが天石屋戸の外に出たときのこと。布刀玉命はしめ縄をアマテラスの後ろにひき渡して、「これより中へ戻ってはいけません」と言いましたが、じつはこの場面に二つ目の漢字の錬金術が隠れています。

それまでの高天原は「さ蠅なす満ち」と言われるように、蠅がブンブン飛んでいるようなうるささで満ちていたわけですが、この蠅としめ縄の漢字を並べてみると二つ目の漢字の錬金術が見えてきます。それがこちら。

蠅から縄へ①

「蠅(蝿)」と「繩(縄)」。ハエとナワにはそれぞれもう一つ別の形があって、ハエの異字体とナワの標準字体はつくりが一緒なんです。そして、桶と蛹同様に、偏だけが変化して「虫」が「糸」になっているんですね。

桶と蛹のグループも合わせて、これら漢字の変化を一つの流れにして考えてみると、桶が蛹、つまり「木」が「虫」になって、その「虫」が今度は「糸」になっていくと読めます。そうすると、これは後にオホゲツヒメから生まれてくる蚕を示唆しているのではないだろうかということが見えてきます。

また、その虫を糸に変える錬金術が、この場合は「捻じる・絞る」ことなのかなと思います。というのも、この二つの漢字に共通するつくりは「黽(ミョウ、モウ)」であり、それは爬虫類を意味する漢字で、「虫」という漢字は元々はマムシの姿を象ったものであり、それが体を捻ると縄状になる。そこから縄という漢字が生まれたと言われているからです。

ということは、物語の背後で何らかの捻れや絞りみたいなものが行われ、その結果、蠅が縄になって、それでしめ縄が登場してきたということになりますね。でも、なぜ捻じる動きが出てきたのでしょう?ちょっとその辺はわからないので、捻じることの意味は今後の考察の課題にしたいと思います。

蠅から縄へ②

しめ縄はふんどし説

ところで、話は少しそれますが、ここで出てきたしめ縄は、布刀玉命の名前から考えるに、相当極太なしめ縄だと思われます。しかも、このしめ縄はアマテラスのふんどしでもあるのではないかなと思います。

なぜなら、父イザナキが禊をしたとき、脱ぎ捨てたふんどしから道を分ける神、道俣神が生まれていて、その神がしめ縄の起源神になっていると思うからです。娘のアマテラスが月経を終えて天石屋戸の外に出たとき、神々からその領域に戻ることを禁じられていることも考えると、お股に関することで月経という非日常と月経明けという日常をしめ縄を通して分けていると言えるからです。股から血が出る月経、「ちまた」とも読めそうですしね。

しめ縄について

まとめ

ということで、以上が漢字の構造から読み取った、天石屋戸シーンについてのお話でした。このシーンは、害虫または害獣を象徴したスサノヲをアメウズメが駆除する話と並行して、アマテラスも虫が持つ完全変態の力を持っていて、それが蛹から成虫へと変身していくこと。また、それが後に蚕となって顕現していくことも示唆しているという、虫が持つ二面性(害虫と益虫という側面)を語っているシーンだと思われます。

高天原のシーンで重要視されていることは「食べること」。食べることは身体の変態、成長を促していきます。それはまるで錬金術で変身していくようなもの。だから、食べることはとても神聖な行為であり、大切な行為なのだということを古事記は伝えているのだと思います。そのような教えがあるからこそ、日本は食文化を大切に育んできたのではないかなと思います。

natan
natan

それでは今日はここまでです。
ご視聴いただきまして、ありがとうございました。
また次回もぜひ聴いてくださいね。
それではまたお会いしましょう!バイバイ!

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