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古事記☆新解釈【53】ヤマタヲロチ退治②ヲロチの容姿(前編)/頭と尾の数、身長、お腹の血のただれについて

ヤマタヲロチ退治②前編アイキャッチ 新解釈『古事記』
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本日のトーク内容

以下の内容は、放送内容を加筆修正しています。

はじめに

皆さんこんにちは、natanです。さあ、始まりました「ろじろじラジオチャンネル」。本日もよろしくお願いします。

今日はヲロチ神話の中から、ヲロチの容姿を説明している場面を取り上げ、解説していきたいと思います。

原文/読み下し文/現代語訳

古事記「ヤマタヲロチ退治②」(原文/読み下し文/現代語訳)

尒問其形如何 答白 彼目如赤加賀智而 身一有八頭八尾 亦其身生蘿及檜榲 其長度谿八谷峽八尾而 見其腹者 悉常血爛也 [此謂赤加賀知者 今酸醤者也]

しかして「その形は如何いかに」と問ひたまへば、答へまをししく、「の目は赤かがちの如くして、身一つに八頭八尾やかしらやをあり。またその身につた檜榲ひすぎひ、そのたけ谿八谷峡八尾たにやたにをやをわたりて、その腹を見れば、ことごとに常に血ただれつ」とまをしき(ここに赤かがちとへるは、今の酸醤ほおずきなり)。

さらに須佐の男命が「その(八俣大蛇の)姿はどのようなものか」と問うと、「その目はホオズキのように赤く、一つの身体に八つの頭と八つの尾があります。またその表面にはツタ(もしくはコケ)とヒノキ、スギが生えていて、その身長は八つの渓谷と八つの峡谷に及ぶほどで、その腹を見るとことごとく血がただれています」と答えた(ここで赤かがちと言われているものは、今のホオズキのことである)。

以上、取り上げるシーンはここまでですが、内容が盛りだくさんなので、前編後編に分けてお話していきたいと思います。

解説

前回のおさらい

最初に前回の内容をおさらいします。高天原を追い出されたスサノヲは、出雲の鳥髪で足名椎と手名椎夫妻、娘の櫛名田比売と出会いました。

足名椎たちが泣いていたのでスサノヲがそのわけを聞くと、「私たちには八人の娘がいたのですが、ヲロチという怪物が毎年やってきては娘を食べていってしまうのです。今年もその時期が来たから泣いています」と答えました。

前回のおさらい

ヲロチの容姿(一覧)

彼らが見たヲロチはこのような姿だったそうです。

  1. 目は赤かがち(ホオズキ)のよう(燃えるような赤い目をしている)
  2. 一つの胴体に八つの頭と尾がある
  3. 表面には蘿(ツタ・コケ)、ヒノキ、スギが生えている
  4. 身長は八つの渓谷と八つの峡谷に及ぶほど長い
  5. 腹は血でただれている

何箇所か八という数字が出てきていますが、八は無数という意味でもあるので、無数の頭や尾、無数の渓谷や峡谷と読み替えると良いと思います。そして、この怪物は毎年やってくるという点も重要です。

ヲロチの容姿(一覧)

ヲロチの出自について

さて、これらの情報を元にヲロチの正体に迫っていきたいと思います。が、その前に、まずは重要なヲロチの出自について触れておかなければいけません。

ヲロチという怪物は今回急に出てきたものではなく、その原型は過去のとある場面で誕生しています。それは、イザナキが火の神カグツチの首を斬って殺したときです。そのときカグツチの血がイザナキの指の股から流れ落ちて誕生したのが闇淤加美くらおかみ神と闇御津羽くらみつは神です。

人間で考えた場合、指の股の数は両手合わせて八つになるので、これら神がヲロチの原型になります。要は、ヲロチの出自にはカグツチの血とイザナキの手が関わっているということです。この話は今後重要な意味をもってくるので、頭の片隅に入れておいていただければと思います。

ヲロチの出自について

ヲロチの容姿2、4/背丈について

それでは早速ヲロチの容姿を見ていきましょう。順不同になりますが、まず私が注目したいのは二と四です。

ヲロチの容姿2、4

一つの胴体に八つ(無数)の頭と尾、身長は八つ(無数)の渓谷と峡谷に及ぶほど長いとのことですが、私はこれを見たとき直感的に「ヲロチは谷間を流れる川のことだ」と思いました。

足名椎の言葉の意味

順を追って説明すると、まず、足名椎は「ヲロチが毎年やってきては、娘たちを食べていってしまう」と話していて、彼らの最後の娘であろう子どもは櫛名田比売と言って、名前に田んぼの「田」が入っていることから、この子は田んぼを擬人化させた存在だということが推測できます。

そして、彼女がまだ幼いことを考えると、これは田んぼを耕作したばかりか、もしくは田植えをしたばかりという意味ではないかなと思います。植えたばかりの苗は櫛のようにも見えますしね。

であるならば、足名椎が言った「ヲロチが娘たちを食べていってしまう」というのは、「せっかく作ったたくさんの田んぼが、ことごとくヲロチに飲み込まれてしまう」と読み替えることができると考えます。

ヲロチの容姿2、4/背丈について①

川の氾濫について

その田んぼを飲み込んでしまうものは一体何かというと、それは川の氾濫が考えられます。川の氾濫が田畑を飲み込んでしまう災害は古今東西起こっているからです。

また、植物学者の稲垣栄洋さんの書籍『世界史を大きく動かした植物』では、「日本の国土にとって田んぼを作る歴史は、激しい水の流れをコントロールすることに他ならない」こと。日本の歴史を見ると、「もともと田んぼは谷筋や山のふもとに拓かれることが多く、それらの地形では山からの伏流水が流れ出てくるため、その水を使って田んぼは作られてきた」ということが書かれていました。

さらに稲垣さんの別の書籍『雑草が教えてくれた日本文化史』では、「氾濫を繰り返す暴れ川の周りには水たまりのような湿地(後背湿地)ができ、人間はその湿地を利用して田んぼを拓くようになった」とも語られていました。

ヲロチの容姿2、4/背丈について②

ヲロチの正体

以上のことから、ヲロチは山間部を流れる川ではあるけれど、それが氾濫を起こして暴れ川になったものが正確な意味でのヲロチだと思われます。今回のシーンにおいては、肥河が氾濫した姿ということになりますね。

また、その暴れ川によって生じた湿地が後に田んぼになることを考えると、ヲロチは湿地(水田)の起源神でもあると言えるかもしれません。

この川の氾濫についていろいろ調べてみると、それは災害のときだけでなく、雪解けの春先にもよく起こる現象らしいので、その季節的な現象のことを「ヲロチが毎年やってくる」と言っているのではないかなと思いました。

ヲロチの容姿2、4/背丈について③

「ヲロチの背丈が八つの渓谷と峡谷に及ぶ」の意味

以上を踏まえた上で、今度は「ヲロチの背丈が八つの渓谷と峡谷に及ぶ」ことの意味を考えてみると、ヲロチが出没する場所はたくさんの山が連なったところで、かつヲロチという暴れ川は日本各地に存在するという意味ではないかなと私は思いました。

前回もお伝えしましが、物語の舞台が出雲だから島根県の話と捉えがちですが、暴れ川は山があればどこでも発生する可能性があり、日本の国土の約7割は森林なので、ヲロチ神話はどこかの地域限定の話ではないからです。実際、川のあるところに大蛇伝説は存在しますからね。

ヲロチの容姿2、4/背丈について④

ヲロチの容姿5/お腹の血のただれについて

さて、今度はヲロチの容姿の別の項目を見ていきます。またまた順不同になりますが、五番目「腹は血でただれている」を見ていきます。

ヲロチが暴れ川であることにプラスして、血は赤く鉄分を含んでいること、「ただれ」は皮膚が崩れることなどを考えてみると、お腹のただれはこのように解釈することができると考えます。

  1. 川底に鉄分が沈殿している
  2. 川底が荒れている
  3. 川底を碧玉(赤石)が埋め尽くしている
  4. 負の感情が集結している
ヲロチの容姿5/お腹の血のただれについて①

1、川底に鉄分が沈殿している

一つ目から見ていくと、川に鉄分が沈殿すると酸化して川底は赤くなります。一般的な解釈では、後にヲロチの身体から出てくる草なぎの太刀と紐づけて、それは砂鉄のことだろうと言われています。でも、砂鉄だけでなく、鉄バクテリアの影響でも川底は赤くなりますよね。

私の考えは結構ざっくりしていて、鉄分が川を流れているのだろうくらいに考えています。そのぐらいシンプルに考えておけば思考の幅が広がって今後の解読もしやすくなるので、ざっくりとした感じにとどめておいています。

2、川底が荒れている

次に二つ目の「川底が荒れている」を見ていくと、暴れ川は大きな岩を大量に運ぶので、洪水の後は川底がゴロゴロした大岩で埋め尽くされます。また、その中に酸化鉄で赤くなった岩石が含まれていることがあり、そのように洪水で川底が赤い岩石で荒れてしまうことを「お腹が血でただれている」と表現しているのではないかなと思います。

これは、ヲロチが上流からものすごい勢いでやってきているという何よりの証拠だと思います。ヲロチの正式な名前も「高志の八俣ヲロチ」と「高い」と言われていて、標高の高いところから一気に駆け下りてくる様子が名前からも読み取れるからです。

ヲロチの容姿5/お腹の血のただれについて②

3、川底を碧玉(赤石)が埋め尽くしている

つづいて三つ目の「川底を碧玉(赤石)が埋め尽くしている」を見ていくと、そもそも「ただれ」とは漢字では「爛れ」と書き、意味は「ただれ」の他に「鮮やか、華やか、輝く」といったものもあり、豪華絢爛や光り輝く燦爛などと使われます。これらの意味からお腹の状態は、痛々しいただれとは別に、ポジティブな側面も持っていそうだなと私は思いました。

そこでいろいろ調べてみたところ、碧玉と呼ばれる赤い宝石が川底一面を覆っている川が世界にあるということを知りました。Youtube内でNHKのグレートネイチャーという番組がそれを紹介していたのですが、期間限定公開だったようで、残念ながらその動画は今見れなくなってしまい、皆さんにご紹介することができなくなりました。本当に真っ赤な川底でビックリしました。

仕方がないので碧玉についてお話すると、碧玉というのは別名赤玉石、レッドジャスパーと言い、日本でも川や海岸で見つけることができます。国内では新潟県佐渡島が産地として有名で、碧玉は古代より勾玉などの装飾品として加工されてきた歴史があり、日本人には馴染み深い宝石です。

碧玉は、噴火によって生じた火山灰が圧縮、酸化することで出来るそうで、古事記では、噴火によって生じた溶岩をカグツチの血が象徴していました。ですから、カグツチ時代に起こった大噴火の形跡が、ヲロチ時代にはお腹の血、碧玉となって現れていると考えることもできるなと思ったので三番目に挙げてみました。

ヲロチの容姿5/お腹の血のただれについて③

4、負の感情が集結している

最後四つ目の「負の感情が集結している」については、「爛れ」にはさらにもう一つ別の意味があって、それは「煮る、焼く」です。お腹がそのような状態だということは、「腹わたが煮えくり返る」とか「肝を焼く」といったような意味になり、ヲロチは何やらお腹に怒りを抱えているらしいことが見えてきます。

ちょっと話はそれますが、高天原でアマテラスが天石屋戸にこもったとき、彼女に初めての月経がきましたが、神話では月経のことを「お腹(下部)が血まみれ」と表現することがあります。ですから、少なからずヲロチはアマテラスの月経にも関連していると私は考えています。

ヲロチの容姿5/お腹の血のただれについて④

となると、ヲロチがお腹に抱えている怒りはアマテラス由来のものと言えるかもしれません。それは天石屋戸にこもるキッカケを作ったスサノヲに対する怒りかもしれませんし、または純粋に月経時のお腹の痛み、もしくは初めての月経で生じた精神の不安定さを表しているのかもしれません。

ただ、スサノヲの蛮行に対して八百万の神も怒っていましたし、遠い昔にはイザナキも愛する妻を失って怒りを大爆発させていたので、それらを考えるとヲロチが抱える怒りは、特定の誰かのものというよりは、神々の負の感情が集結したものなのかもしれません。

どちらにせよ、ヲロチは何らかの負の感情を持っているということは言えるかなと思います。

というわけで、以上がお腹の血のただれについてのお話でした。その意味を四つほど挙げてみましたが、これら以外にもお腹のただれが意味することは多々あると思うので、わかり次第お伝えしていければいいなと思っています。

次回はヲロチの容姿後編をお送りしたいと思います。

natan
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それでは今日はここまでです。
ご視聴いただきまして、ありがとうございました。
また次回もぜひ聴いてくださいね。
それではまたお会いしましょう!バイバイ!

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