本日のトーク内容
はじめに
皆さんこんにちは、natanです。さあ、始まりました「ろじろじラジオチャンネル」。本日もよろしくお願いします。
前回、ヲロチ退治を終えたスサノヲが須賀の地にお宮を作ったという話の中で、スサノヲとクシナダヒメ夫妻は年に一回しか会わない奇妙な関係をもつとお話しました。その夫婦生活がどのように行われていくのか、今日はその様子をとある地方のお祭りを参考に解説してみたいと思います。
これまでのおさらい
まずは、これまでの内容をおさらいします。
スサノヲは肥河を下流から上流へと上っていき、そこで足名椎たちと出会いました。そのときスサノヲは川を挟んで足名椎と会話をしていて、そこで成立したクシナダヒメとの結婚も川を挟んでいるために、七夕伝説のような特徴を持つことになりました。
つまり、ふたりは年に一回しか会わないということ。年に一回しか会わないということは、言い換えれば、ふたりは遠距離夫婦生活、別居婚をするということになります。そのため、ヲロチ退治が終わった後、スサノヲは稲田宮という五穀豊穣と妊娠を祈願するお宮を山から遠く離れた須賀の地に作り、そこに居を構えました。

スサノヲとクシナダヒメの奇妙な結婚生活
このような遠距離別居婚の中でふたりはいつどこで再会するのかというと、「七夕伝説的なのであれば、夏にスサノヲが肥河を上っていって、川の上流で川を挟みながらクシナダヒメと会うのでは?」と考えてしまうところなのですが、じつは違うんです。
季節は春から夏にかけてで、スサノヲがクシナダヒメを須賀の地に呼ぶんです。というのも、季節については後ほどお話するとして、なぜスサノヲがクシナダヒメを自分の所に呼ぶかというと、彼は須賀の地で「大神」という称号を得ているからです。前回もお話したように、「大神」は特定の場所の主でそこから一歩も動けないので、クシナダヒメが須賀に赴く形になります。
「そんな話聞いたこともない」という方がほとんどだと思いますが、じつはヲロチ神話をベースにしているであろうお祭りが地方に存在するんです。

これからご紹介するそのお祭りは、登場人物の名前や地名は違えど、私がこれまで解説してきた内容と重なる部分がたくさんあるので、皆さんにはぜひこれまでの解説を思い出しながら、これからお伝えする話をお聴きいただければと思います。
山梨県の奇祭について
水防祈願祭「おみゆきさん」
私が住む山梨県では、毎年4月15日に「おみゆきさん」というお祭りが開催されています。おみゆきさんは825年頃、甲府盆地の水害を鎮めるために釜無川と御勅使川の合流地点で始まった水防祈願が起源とされていて、1200年もの間続いているお祭りです。江戸時代までは夏と冬の二回行われていたそうですが、現在は年一回の開催となっています。4月開催ですがそれを「夏御幸」と言います。

山梨県(甲斐の国)は戦国時代、武田信玄公が治めた土地です。信玄公は全国的には戦国武将として知られていますが、県民にとっては治水工事の神様として崇められています。
信玄公は氾濫をくり返す釜無川の水を治めるために、17年の歳月と斬新な治水構想によって、川の流れをコントロールする信玄堤というものを完成させて、甲府盆地を水害から守りました。その信玄堤は400年以上たった現在でも治水機能を果たしています。
信玄公は治水事業の一環としておみゆきさんにも力を入れ、これを公祭にしました。また釜無川はその後、農業用水に活用されるようになり、川の周辺では水田が作られていきました。

おみゆきさんの特徴
そんなおみゆきさんの特徴ですが、おみゆきさんの「御幸」とは行幸、つまり神様が外出するという意味です。その言葉通り、笛吹市一ノ宮浅間神社から甲斐市の釜無川の土手沿いにある三社神社まで神輿が出向き、そこで水防祈願と川除の神事を行った後、元きた道を帰っていきます。
その移動距離は往復で約50kmにもなるため、担ぎ手は景気をつけるために「ソコダイ・ソコダイ(目的地はすぐそこだ)」という掛け声をかけながら進んでいきます。
江戸時代までは三つのお宮からそれぞれ神様が三社神社に集まっていましたが、明治以降は一社(一ノ宮浅間神社)だけで執り行われるようになりました。

さて、このおみゆきさんには一番の特徴があり、それは神輿の担ぎ手である男性陣が女装をしていることです。なぜ女装をするのかというと、一ノ宮浅間神社の神様がコノハナサクヤヒメという富士山の神様で、担ぎ手はお姫様を驚かせないように、またはお姫様に恥ずかさを感じさせないように、といった理由から女装をしているそうです。

このような話を聞いて、皆さんはどう感じられたでしょうか?私がこれまで解説してきたヲロチ神話と似ている部分が多くないですか?私はこのお祭りを念頭に置いてヲロチ神話を解読したわけではないのですが、解読が進めば進むほど「これっておみゆきさんとソックリじゃないか」と気づいたんです。
もちろん、おみゆきさんは神様の名前も地名もヲロチ神話のものとは異なっています。ですが、私が考えるに、たぶんおみゆきさんのような形の水防祈願祭は古の時代には日本中にあったのだろうなと思うんです。なぜなら、暴れ川があればそこには必ずヲロチ神話があるからです。
その中で山梨では武田信玄公の大規模な治水工事が成功を収め、おみゆきさんが公祭になったから、このお祭りが残ったのではないかなと私は考えています。
おみゆきさんとヲロチ神話の共通点7つ
さて、ここからはおみゆきさんとヲロチ神話の内容をすり合わせてみたいと思います。以下の7項目で見ていきます。
- お祭りの目的
- お祭りの開催時期
- 神様の属性
- 神輿が行幸する距離
- 神輿の担ぎ手
- 神社がある場所
- 川の周辺の様子
①お祭りの目的
①から見ていくと、おみゆきさんの目的は水防祈願と川除(堤防)に対するお祭りで、古事記ではヲロチ退治という隠喩物語になっています。
②お祭りの開催時期
②お祭りの開催時期は4月15日ですが、その日に行われるものを「夏御幸」と言います。たぶんこれは、春から夏に向かっていくという意味だと思われます。
ヲロチ神話でも、スサノヲが出雲の地に到着したばかりの頃は辺り一面が霧に覆われていましたが、ヲロチ退治後は入道雲が湧き立ったので、ここでも季節は春から夏、もしくは梅雨から夏へ移行したと考えることができます。
以前もお話したように、ヲロチ神話は季節誕生の神話でもあるので、もしかしたらおみゆきさんの方も神様の行幸が季節の移り変わりを意味しているのかもしれません。
③神様の属性
③神様の属性は、おみゆきさんでは富士山の神様であるコノハナサクヤヒメ(古事記訓みでは木花のサクヤビメ)というお姫様が主役になっていて、ヲロチ神話では山の神、大山津見神の子孫であるクシナダヒメが対象となっています。

④神輿が行幸する距離
④神輿が行幸する距離は、笛吹市一ノ宮浅間神社から甲斐市三社神社まで片道約25km(往復約50km)で、ヲロチ神話ではクシナダヒメがスサノヲに会いに行く距離が川の上流から下流までなので、かなりの移動距離になると思われます。
⑤神輿の担ぎ手
⑤神輿の担ぎ手は全員女装をした男性であり、ヲロチ神話ではスサノヲが女装をしてヲロチをもてなしています。
⑥神社がある場所
⑥神社がある場所は少々異なっていて、笛吹市一ノ宮浅間神社、甲斐市三社神社ともに甲府盆地内にありますが、ヲロチ神話では稲田宮が須賀の平野内に創建されたと考えられます。
⑦川の周辺の様子
⑦川の周辺の様子は、釜無川の周囲では水田が作られ、ヲロチ神話では須賀の三角州内に水田が作られると思われます。

以上のように合致する部分が多々ある中で特に注目したいのが、やはり⑤神輿の担ぎ手が全員女装をした男性だということです。暴れ川ヲロチを鎮めたスサノヲが女装をしていたから、水防祈願と女装がセットになっていると思われます。これはヲロチ神話を読み解かない限り誰も知りようがないことだと思います。
静岡県の奇祭について
女装する奇祭「大瀬まつり」
さて、このように女装をする奇祭は山梨県以外にもあり、たとえば静岡県沼津市で毎年4月4日に開催される「大瀬まつり」は、駿河湾の豊漁と航海の安全を祈願して行われます。このお祭りでは漁船に乗り込んだ漁師たちが大瀬神社を参拝する際、漁師たちは女装をします。
そこでの女装の理由は、大瀬神社の神様が男神だから女装をして楽しませるためとか、4月4日は桃の節句と端午の節句の中間で、男と女の中間だから女装しているといった説があるそうです。

おみゆきさんと大瀬まつりの共通点
理由は諸説あれど、おみゆきさんと大瀬まつりの共通点は水害から身を守るためのお祭りで、水防の成就は結果的に五穀豊穣と豊漁をもたらすので、それらを祈願するためのお祭りでもあること。そして、そこではどちらも女装が重要な役割を果たしています。
ちなみに、おみゆきさんが行われる釜無川は笛吹川と合流した後、富士川という名前に変わって最後は駿河湾に注ぐので、女装する奇祭に不思議な繋がりを感じます。

おみゆきさんの女装について
おみゆきさんの女装の謎
さて、山梨で行われるおみゆきさんでは水防祈願以外の理由でも神輿の担ぎ手が女装をしています。そこでの女装の理由は、お姫様を驚かせないように、または恥ずかしさを感じさせないようにそうしているとのことですが、でもこの理由はなんだかしっくりきません。なぜなら、彼女は何に驚くのか、何に対して恥ずかしいと思うのか、その理由が全然わからないからです。
おみゆきさんの女装の理由
でも、ヲロチ神話で考えるとその理由が何となく見えてくるんです。スサノヲが稲田宮を創建した後、彼はクシナダヒメと神生みを行います。要は子作りをします。
クシナダヒメが須賀に赴くということは、子作りをしに行くということなので、だからそれを恥ずかしいと思ったり、処女であればなおさら衝撃的な体験になると思うので、驚かせないようにという配慮もあって女装がされているのではないかなと私は考えました。
ですが、おみゆきさんにそのような話はありません。女装している理由だけが語り継がれています。おみゆきさんでは神生み(子作り)の部分が省かれてしまったのでしょうか?いいえ、そんなことはないんです。多くの人がそれを知らないだけで、ちゃんとおみゆきさんにも子作り要素は残っているんです。
三社神社に隠された秘密
それは、おみゆきさんに関してこれが個人的に一番面白いなと思っていることなのですが、コノハナサクヤヒメの行幸先である三社神社の裏手にはなんとラブホテルが建っているからです。
私がはじめて三社神社を訪れたとき、「なんだ、この裏にある場違いなホテルは!」と驚いたのですが、ヲロチ神話を解読した今では「神話が形を変えて残ってる!」と一人で感動しながらその光景を眺めています(笑)
とは言っても、おみゆきさんと神社の裏にあるホテルを紐づけて考える人は私以外いないと思います。お祭りと子作りは日本の文化では常にセットだったので、そこはお祭りの参加者が使っていたホテルなのかもしれませんが、私としては「ヲロチ神話そのもの!きっと土地の神様が神話を残してくれたんだ」と思って勝手に嬉しい気持ちでいます。
視聴者さんの中で、もし信玄堤や三社神社に訪れてみたいと思う方がいらっしゃいましたら、ぜひ神社の裏にある場違いなホテルにも目を向けて、ヲロチ神話に思いを馳せてみてください。

おわりに
というわけで、今日は女装をする奇祭「おみゆきさん」を参考に、ヲロチ神話との共通点を整理しながら、スサノヲとクシナダヒメの関係性を見ていきました。この夫婦の再会は年に一回だとお話しましたが、昔のおみゆきさんを参考にすると、たぶん春と秋の二回なんだろうなと思います。
さて、このおみゆきさんは水防祈願と治水工事の完成を祝って行われていますが、じつはヲロチ退治もただ暴れ川を鎮めたのではなく、スサノヲは治水工事も行っているんです。と言いますか、それこそが本当の意味でのヲロチ退治だからです。
ということで、次回はスサノヲが行った治水工事についてお話してみたいと思います。

それでは今日はここまでです。
ご視聴いただきまして、ありがとうございました。
また次回もぜひ聴いてくださいね。
それではまたお会いしましょう!バイバイ!
