私の宇宙からこんにちは、natanです。
今日は、愛着障害が生まれる要因と背景についてお話します。
▼ 参考文献 ▼
増加する愛着障害
子どもの数が減り、一人ひとりの子どもが手厚く大切に育てられているはずの現代において、愛着の問題を抱えた子どもだけでなく、大人までも増えているという現実があります。
それを示すもっとも端的な事実は、子育てに困難を感じる親が増え、虐待や育児放棄が社会問題化していることです。
愛着の問題は、もっとも子育てを直撃しやすいのです。
子育ての困難は、裏を返せば、子どもが育つことの困難でもあります。
発達の問題を抱えた子どもたちが急増していますが、その一部には不安定な愛着の問題が関与しています。
比較的マイルドな愛着の問題は、愛着スタイルが確立するとともに、自立への圧力が高まる青年期以降にさまざまなトラブルとなって現れはじめます。
大人にひそむ愛着障害の増加を間接的に示しているのは、たとえば、境界性パーソナリティ障害の増加や、依存症や過食症の増加です。
これらは、愛着不安の強いタイプの愛着障害が増えていることを示唆していると考えられます。
気持ちや行動、対人関係が不安定になりやすく、日常生活や仕事で著しい苦痛や支障を引き起こしてしまう障害です。
基本的には、相手の気持ちを敏感に察することができるため、相手のために(時として必要以上に)頑張ったり、思いやりのある行動をとったりすることが多い方々です。
ただ、相手が自分を見捨てて離れていく、自分を大事にしてくれていない、と感じると、不安や怒りが急に強くなり、うまくコントロールできなくなってしまいます。
冷静になると、なぜあんなことをしてしまったのか…と自分を責めてしまい、とても辛い気持ちになり、さまざまな影響が出ます。
アメリカの調査では有病率は一般人口の約2%で、その約7割が女性であり、わが国でも同程度と考えられています。
うつ病や不安症、PTSD、摂食障害などが併存する場合もあります。
参照:酒田駅前メンタルクリニック―境界性パーソナリティ障害
養育環境の関与が大きい
愛着障害の要因が主として、養育環境にあります。
おおむね7~8割が養育などの環境的要因とされ、残りの2~3割が遺伝的要因によると考えられています。
米アイオワ大学のキャスパーズらが行った研究では、同じ養育者に育てられた実子と、養子として育てられた血の繋がりのない子どもとで、どの程度愛着パターンが一致するかが調べられました。
結果は、被験者の平均年齢が38歳という中年期にさしかかりつつある年齢においても、両者の愛着パターンの一致率は60%という高い値を示しました。
またキャスパーズらは、養子に出された子の実の親がアルコール依存や反社会的な問題を抱えていたケースで、愛着パターンに影響が出るかどうかも調べていますが、影響は認められませんでした。
これらの結果をみると、愛着スタイルについては、遺伝的要因より養育者を含む養育環境の影響が大きく、しかも生涯にわたってその影響が持続するということがわかりました。
これまで行われた研究では、遺伝的要因によって不安定型愛着が生まれる割合は0.2~0.25以下と、かなり低いものと考えられています。
発達障害が0.7~0.9、パーソナリティ障害でも0.5~0.6とされていることを考えると、愛着障害は環境要因が非常に大きいといえます。
親の愛着スタイルが子どもに伝達される
親の不在や、養育者の交替が、愛着に傷跡を残すことは否定しがたい事実です。
しかし、養子になった人がすべて不安定型の愛着スタイルを示すわけではなく、親がいなくても親代わりの人に育てられ、安定した愛着スタイルを育む人も少なくありません。
逆に、実の親によって育てられても、不安定な愛着スタイルを示す場合もあります。
むしろ、昨今増えているのはそうしたケースです。
以前もお話したように、特別に問題のありそうにない普通の家庭で育った子どもでも、三分の一が不安定型の愛着パターンを示し、大人のおよそ三分の一にも不安定型愛着スタイルが認められています。
こんなにも多くの人が、幼いころに親との離別や死別、あるいは養育者の交替を経験していないことは明らかですし、虐待を受けていたとも考えにくいものです。
ではいったい、そこには何が関わっているのでしょうか?
それについてわかってきたことの一つは、
親の愛着スタイルが子どもに伝達されやすい
ということです。
愛着スタイルはさまざまな対人関係に影響しますが、とくに親になったときに、子どもとの関係においてテキメンにあらわれやすいのです。
数多くの研究によっても、親の愛着スタイルが子どもの愛着パターンに大きく影響することが裏付けられています。
つまり、不安定型の愛着スタイルを持つ親に対して、子どもは不安定型の愛着パターンを示しやすいのです。
とくに、母親の愛着スタイルと子どもの愛着パターンは密接に関係し、母親が不安定型の愛着スタイルを持つ場合、子どもも母親との間に不安定型の愛着パターンを示しやすいことが明らかとなっています。
また、養子となった子どものケースでも、実の母親と養母のそれぞれが子どもにもたらす影響を比べてみると、実の母親の愛着スタイルよりも、養母の愛着スタイルの影響の方がずっと大きいのです。
つまり、実の母の愛着スタイルが不安定型であっても、育ての親が安定型ならば、子どもの愛着パターンも安定型となりやすいのです。
逆もまた真なり。
父親と母親で愛着スタイルが異なっている場合には、安定型の愛着スタイルをもつ方の親との関係が、不安定型の方の親との間に生じやすい不安定型の愛着パターンを補ってくれることもあります。
また、その後出会う人との関係によって、修飾や修正を受け、10代初めごろに愛着スタイルとして固定していきます。
よって、母親以外との関係も重要なのです。
一部は遺伝的要因も関与
養育者を含む周囲の環境が、愛着パターンを決める主要な要因だとする研究結果がある一方で、生まれもった気質によっても、一部影響されるのではないかということも指摘されてきました。
それを裏付けるように、新生児の段階でイライラしやすかったり、ストレスに対してネガティブな反応を強く示すなどして、母親が扱いづらいと感じる赤ん坊では、後に抵抗型や混乱型の愛着パターンを示す傾向がみられました。
これは遺伝的要因により、愛着障害を生じやすい不利な気質が関与している可能性を示しています。
ただその一方で、そうしたケースでは母親も子どもに対して反応が乏しかったり、過度にコントロールしようとする傾向がみられました。
遺伝的な気質と、母親の反応性がいずれも不利な方向に相互作用を起こすことで、不安定型の愛着パターンが形成されていくと考えられます。
次回は、子どもの愛着パターンについてお話したいと思います。
▼ 参考文献 ▼