本日の講義内容
はじめに
皆さんこんにちは、natanです。この講座では、古事記の読解力を上げるために、日本の古代信仰について解説しています。今回から陰陽五行思想についてお話していきたいと思います。
今回も民俗学者、吉野裕子先生の知恵を拝借しながらお話していきます。先生の詳しい紹介は、講座第6回をご視聴ください。

前回は、陰陽五行思想は古代から受け継がれてきた日本の自然科学であり、江戸末期まで活用されてきた知識で、当時の人々にとっては一般常識だったというお話をしました。そんな陰陽五行は大陸から渡来した思想のため、まずは古代大陸においてそれがどのように説明されているかをお話したいと思います。
陰陽五行について
太極と陰陽の発生
陰陽五行における「陰陽」とは、宇宙間における森羅万象を陰と陽の関係で捉えようとする二元論のことです。古代大陸哲学書の『淮南子』では、原初の宇宙は天地未分化の混沌たる状態だったと言われていて、この混沌は「太極」や「太一」と呼ばれます。
この太極から陰陽が生じるのですが、まずはじめに光明に満ちた軽く澄んだ陽の気が天になり、この陽の気の集積が火になって、火の精が太陽になりました。次に重く濁った暗黒の陰の気が沈んで地になり、陰の気の集積は水になって、水の精は太陰(月)になりました。この太陽と太陰の発生は天での出来事になりますが、人間においては陽が男、陰が女となって生じました。

五行の発生
この陰陽が互いに交感・交合することで万物は生成化育、栄枯盛衰を繰り返すとされ、陰陽五行の「五行」とはこの生死・盛衰の作用(はたらき)を具象化したものになります。五行の「五」は宇宙を構成する五原素「木火土金水」を指します。
ここまでの話を図で表すとこうなります。宇宙の混沌である太極が分化し陰陽が生じます。これは見方を変えれば、太極が陰陽の統合体でもあるということになります。そして、この陰陽が交感・交合することで五原素「木火土金水」が生じます。木火土金水とは文字通り、木と火と土と金(金属)と水を意味します。

五行の相生・相剋
さて、この五原素を深堀って見ていくと、五原素には相生と相剋という二つの重要な関係があって、相生は「助ける」、相剋は「勝つ」という意味を持ちます。
まず相生から見ていくと、木生火(木は火を生じ)、火生土(火は土を生じ)、土生金(土は金を生じ)、金生水(金は水を生じ)、水生木(水は木を生ず)という関係があります。たとえば、最後の「水生木」において、水がないと木は育ちませんよね。そんな感じで、原素は決まった相手を助けることができる、これを相生と言います。
次に相剋を見ていくと、木剋土(木は土を剋し)、土剋水(土は水を剋し)、水剋火(水は火を剋し)、火剋金(火は金を剋し)、金剋木(金は木を剋す)となります。たとえば、「水剋火」において水は火を消すことができますし、「火剋金」では、火は硬い金属を変質させることができます。このように原素は決まった相手を倒すことができる、それを相剋と言います。
相生と相剋を一つにまとめると、相生が外格、相剋が内格を形成する形となります。

五原素の要素
次に、五原素にはさまざまな要素も割り当てられているので、それを7つの視点から見ていきます。本性、季節、方位、色、数、配当図、その他という順でご紹介します。
①本性
まず、五原素には本性というものがあって、「木」は曲直といって、木のように曲がったり直進したり屈伸したりと、どこまでも進展する生気と外側に向かう力を持っています。
続いて「火」は炎上で、火のように上へ上へと上がる力を持ち、「土」は稼穡といって、これは穀物の種を蒔いたり作物を収穫することを意味するので、土は蒔いては採る、入れては出すといったように、ある行為を反対の行為で打ち消す、中和の力を持ちます。
続いて「金」は従革。金属(刃物)は人を傷つけるので金のエネルギーは殺気立っています。保身に走った結果、人を刃物で傷つけるので、内側に向かう力を持っています。最後に「水」は潤下で、水のように下へ下へと下る力を持っています。

これらを俯瞰して見てみると、木と金、火と水の本性はそれぞれ対になっていて、そのどちらにも属さないものが土だということがわかります。
②季節
次に季節を見ていくと、木は伸長する力を持つので春、火は熱いので夏、金は秋、水は冬、土は土用に割り当てられます。ところで、下図においてなぜ土が真ん中に位置しているかというと、土用は季節の変わり目の18日間のことを指し、それは年四回あって、すべての季節を動かす力を持っているので、こういった図に書き換えることができるからです。

③④方位と色
続いて方位と色を見ていくと、木が東で青、火が南で赤、金が西で白、水が北で黒、土は中央で黄色になります。

⑤数字
次に数字を見ていくと、一から十までの数字のうち、一は水、二は火、三は木、四が金、五が土となり、これらの数字に対となる数がくっつきます。一の水には六(奇数一に対して偶数の六がペア)、二の火には七(偶数二に対して奇数七)、三の木には八、四の金には九、五の土には十。このように数字も陰陽のペアを組みながら五原素に割り振られています。

⑥配当図
次に配当図。今回は時間の関係上中身を細かく説明できませんが、これまでお話してきた色や方位、季節などの他に、徳や星、人体の内蔵や味の種類、音などさまざまなものが五原素に割り振られていて、それを一覧にしたのがこの配当図です。

今後の古事記解説では、この表を参照しながらお話するケースも出てくると思うので、現段階では「こういう感じなのね」と眺めていただければと思います。
⑦その他
最後にその他ということで、配当図には入り切らない特徴を紹介します。
- 【木気】地震、雷、風、細くて長いもの(蛇、髪、反物など)、顕現、発展など。
- 【火気】高貴、頭脳、名誉、麗しさ、表、公難(大災難や大問題)、争い、火薬など。
- 【土気】万物を土に帰す、灰(煤)、腐敗、潰滅、死、葬儀、飽食、廃材、改革、変化、繋ぎ目、相続、山(巨大な土の塊)、不動、停止、鉱物(小石)など。
- 【金気】金属、食、財宝、お礼、鉱物(大)、豊か、堅固、健やか、強い、主人、動、山岳、交通機関、丸いもの、種子、果実など。
- 【水気】胎、穴、孤独、悩み、盲目、連結、衰退などなど。
この要素たちも古事記解読のヒントになるので、今後の解説で活用していきたいと思っています。
以上のように、現代科学はものの成り立ちを因果関係で見ますが、陰陽五行は属性で見る形となります。今日お話した以外にもまだまだ五行に配当される要素はたくさんあるので、それは追々お話していきますね。
五行の相生・相剋で読み解ける日本のお祭り2選
ここからは、五行の相生・相剋で読み解ける、日本のお祭りを二つほどご紹介したいと思います。
山梨県の祭り「おみゆきさん」
一つ目はヤマタヲロチの解説回でご紹介したお祭りで、私の住んでいる山梨県で毎年春に開催される「おみゆきさん」というお祭りについてです。このお祭りは1200年以上続く水防祈願祭で、全国的には珍しい女装するお祭りです。
この「おみゆきさん」は釜無川の氾濫を防ぐためのお祭りなのですが、その祭りのクライマックスに、参列者や子供たちが小石を拾い、その石をお祓いした後、川へ投げ入れます。この行為には水難防止と厄除けの願いが込められていると言われているのですが、でもなぜ小石を投げると水難防止になるのか、その理由は誰もわかりません。しかし、その答えは陰陽五行を用いればいとも簡単に導き出すことができるんです。

小石というのは土に属し、土は「土剋水」の理で水に勝ちます。そのため、洪水を抑えるためには土の力が必要ということになります。だから土に属する小石を投げて水を負かしているんです。たったこれだけの理由。これが陰陽五行という古代自然科学の考え方です。

千葉県の祭り「三ツ堀の泥祭り」
もう一つ紹介したいお祭りは吉野先生が解説されていたもので、千葉県の三ツ堀泥祭りです。このお祭りは野田市の香取神社で江戸時代から執り行われてきたもので、現在は氏子さんが不足して平成2年から休止しているそうなのですが、このお祭りでは神輿を担いだ若い男性たちが、神輿とともに泥の池に飛び込み、子供たちからも泥を投げつけられ、その泥で汚れた神輿は利根川で清められるという摩訶不思議なお祭りです。吉野先生いわく、これも利根川の氾濫を抑えるための呪術だろうとのこと。

ここでも「土剋水」の理によって、土に属する泥を神輿に投げつけ、泥だらけになった神輿を利根川で清めることによって利根川自体を鎮めています。このように陰陽五行で見ていくと、奇祭は古代自然科学に裏打ちされた根拠あるものだということがわかります。
以上のように、ここでご紹介したお祭り以外にも、土や泥に関連したお祭りは全国各地にあるので、皆さんのお住まいの地域でも探してみてください。もしあったら、それを「土剋水」の理をもって見てみると面白いことがわかるかもしれませんよ。
今日は、陰陽五行の基礎知識についてお話しました。この思想は古代日本を知る上で欠かせないものなので、ぜひこの機会に覚えていただければと思います。

それでは今日はここまでです。
ご視聴いただきまして、ありがとうございました。
また次回もぜひ聴いてくださいね。
それではまたお会いしましょう!バイバイ!


