本日のトーク内容
はじめに
皆さんこんにちは、natanです。さあ、始まりました「ろじろじラジオチャンネル」。本日もよろしくお願いします。
前回は、天石屋戸シーンを身体宇宙論で見たとき、そこではアマテラスの初めての月経、初潮が描かれているよというお話をさせていただきました。今回は、視点をガラリと変えて、天石屋戸シーンに描かれる、とある重要な日本文化の起源を三つほどご紹介したいと思います。
①漆文化
アマテラスが傷つけられたことの意味
まずは一つ目。天石屋戸シーンにおいて、スサノヲは皮を剥いだ馬を屋敷の天井から投げ落とし、そこで機を織っていた娘を死なせてしまいました。その少女について、『日本書紀』ではアマテラス自身が身体を傷つけられたと記されているので、機織り娘はアマテラスの分身と言えます。
機を織るための梭でアマテラスが身体を傷つけられたとするならば、たぶんそのとき血が流れたはずです。また、梭は横糸を通すための道具なので、横方向にザクッと引っ掻かれた感じになるでしょうか。『日本書紀』のバージョンを参考に、スサノヲによってアマテラスが傷つけられたことの意味を考えてみると、その出来事はとある日本文化の起源を語ったものだということが見えてきました。
漆文化の起源
その文化は何かと言うと、それは日本が世界に誇る漆の文化です。どういった思考ルートでそれがわかったかというと、天石屋戸シーンでは天香山を舞台にそこから採取されるさまざまな草木が登場していて、それが漆文化発見のヒントになりました。
天石屋戸の舞台の一つになっている天香山は、古事記解説第40回でお話したように、お香の香りと煙が漂う山だと私は考えています。そして、私はひょんなことから煙のような木が実際にあるということを知りました。それはスモークツリーと呼ばれるものです。
スモークツリーは、ケムリノキ、ハグマノキとも呼ばれ、煙のようにふわふわした花をつける木です。この木がウルシ科に属することを知ったとき、ピンときました。「アマテラスが傷つけられて血を流すことは、漆の採集を意味していたんだ」と。
漆は、ウルシノキから採集でき、「漆掻き」と言って刃物で木の表面に横方向に傷をつけてかき取ります。漆自体は透明で、そこに辰砂やベンガラという酸化鉄を加えて鮮やかな赤色を作ります。出ました、辰砂。スサノヲは辰砂の神様です。そして、ベンガラの酸化鉄の方はアマテラスの血に関係していそうですね。
また、アメウズメは空になった桶を伏せて踊っていて、そこでは器のようなものが出てきているので、そういったことを踏まえると、天石屋戸シーンは日本が世界に誇る漆、そして漆器文化の起源を語っているのではないだろうかと私は考えました。
漆の特徴
せっかくなので、漆の特徴についても簡単に触れておくと、ウルシノキから漆を取るためには、植木をしてから8年~12年ほど待つ必要があるそうです。12年というと、それはちょうど女の子に初潮が来る年齢でもあるので、だから漆の起源と初潮の起源は同じ場面で語られるのかもしれません。
また、漆は硬くなると、耐久性や耐水性、防腐性が高くなり、水や酸、アルカリにも強くなり、さらには抗菌、殺菌作用、防虫効果も発揮するそうです。ちなみに、日本では漆は縄文時代から用いられていたそうで、一説によると、あらゆる塗料の中で日本の漆が最強で、しかも漆を超えるものは未だ発見されていないとも言われているそうです。
宝物を保管している奈良の正倉院には、美しい漆器がたくさん保存されていて、漆器制作は日本が誇る重要な文化です。漆器には貝を埋め込んだ美しいものもあるので、天石屋戸シーンで描かれる神々の儀礼にはもってこいのアイテムだと思います。
②発酵文化
さて、二つ目の日本文化の起源に移りましょう。二つ目の文化の起源は、古事記内で漆や漆器が発見できたことをきっかけに見つけることができました。ですから、答えは後でお話するとして、まずは漆器をベースに考えていった私の思考ルートをお話し、それがどういった答えを導き出すかを皆さんは推理しながらお聞きください。
梅雨から夏へ
一般的に、漆器制作は梅雨の時期が最適だそうで、その理由は、漆は湿度70%くらいの多湿の環境下で乾くからだそうです。なるほど、だから多湿の日本で漆文化が花開いたというわけですね。そして、夏になると漆器が完成します。
この梅雨から夏への季節の移行、これが天石屋戸シーンでも暗喩的に語られていると感じました。梅雨は太陽の力が弱まる時期だとも言えるので、それは太陽が隠れてしまう日食と似ているからです。そこから考えるに、アマテラスが天石屋戸にこもったのは季節で言えば梅雨、そしてアマテラスが外に出てきたのは夏だと言えます。
アマテラスに関与するもの
アマテラスは太陽神であると同時に、稲穂の神様でもあります。お米は夏に花を咲かせます。初めて咲いた花を「初花」と言い、前回お話したように、それは初潮を意味する言葉でもあります。漆も誕生し、アマテラスにも初潮が来たしで、神々は大いに喜んでいるわけですが、喜ぶ理由はじつはそれだけではなかったようです。
前回お話したように、太陽が隠れてしまう日食は月が関与して起こる現象なので、アマテラスが天石屋戸にこもったことには、スサノヲだけでなく、月の神ツクヨミも関与していると私は考えています。
ツクヨミは父イザナキから夜の食国を統治するよう言われた神様で、かつ太陽と月は対称的な関係にあるため、太陽神がマクロであれば月神はミクロだと言えます。ですから私は、ミクロ繋がりで、ツクヨミは微生物の世界も統治する神だと考えています。その微生物の代表がカビで、このカビが天石屋戸にこもったアマテラスに関与したはずだと考えました。
腐りかけているアマテラス
アマテラスが天石屋戸にこもった時期を梅雨とした場合、そのとき太陽神がこもれば室温も上がるので、中は高温多湿になることが想像されます。その環境下において、月に属するカビたちは活動的になるので、稲穂の神様であるアマテラスに対して大いに影響を及ぼしただろうと考えます。
そのように考えてみると、このシーンは黄泉国にいる母イザナミとアマテラスがリンクし合っていることに気づきます。イザナミは体中にウジがたかって腐っていたわけですが、アマテラスも同じくカビの影響を受けて腐りかけていると言えるからです。
ちなみに、そのカビはどんなものかというと、白色腐朽菌の類ではないかなと私は考えています。この菌は木を腐らせながら生育する木材腐朽菌に含まれ、シイタケ、エリンギ、エノキタケなどのキノコ類もこの微生物群に属します。今回の解説では、それが白色腐朽菌だと断言するための根拠が揃えられないので、後日もう一度この菌に触れて、なぜアマテラスに白色腐朽菌が関わっているのかをお話しますね。
ということでお話戻りまして、カビによって腐りかけていたアマテラスでしたが、アメウズメや八百万神たちの努力によって、アマテラスは無事外に出ることができ、穂に花を咲かせることができました。これでお米が収穫できる見通しがたった!という話ではなく、この「米に花が咲いた」ということを漢字で表してみたところ、二つ目の日本文化の起源が見えてきたんですね。
糀の誕生
それは、「米の花」と書いて「糀」と読む。そう、糀の誕生です。糀は日本の発酵文化に欠かせません。ということで、漆器制作の季節、梅雨と夏を経由して、そこに月の関与(カビ)をプラスして天石屋戸シーンを考えたとき読み取れた二つ目の日本文化は、発酵文化ということになります。アマテラスに初潮がきて、漆器も生まれ、さらに糀まで生まれた。だから神々は大喜びしたのだと思います。
今回、カビの力によって腐敗しかけていたアマテラスは、アメウズメたちの力によって発酵という新しい進化の形を得ることができました。これは漆とも共通する点で、漆は肌につくとかぶれます。それがスサノヲの毒の要素です。しかし、その漆は手を加えることによって頑丈な塗料になります。腐敗と炎症、糀の発酵と漆の防御と、ここでも古事記の対称性が取られているなと私は思います。
糀のフワフワもこもこした美しい姿は、少女から大人な女神へと変身したアマテラスそのもの。薄っすらおしろいを塗った感じ。また、美しい漆器に乗せられた発酵食品も想像してみると、まさにそれは儀礼や神々の食べ物にふさわしいなと思います。
ちなみに、「糀」は和製漢字で、江戸時代にはすでに使われていた形跡があるようです。麦編の「麹」が主流ではありますが、このシーンが言いたいことは穀物の発酵なので、発酵現象そのものに注目していただければ良いかなと思います。
③織物文化
さて、ここからは最後、三つ目の文化について触れていきましょう。三つ目は漆や糀よりはるかにわかりやすく描かれています。それは織物文化です。娘が機を織っていることから、その起源が語られていることは容易にわかるのですが、雅な漆器についても語られていることを考えると、ここで出てくる織物もたいへん上質なものだと言えそうです。
古事記は、機織り娘が神のための衣を織っていると語っていますし、アメウズメが踊る際に身に着けたツルマサキでできた飾り。このツルマサキはニシキギ科に属する木で、紅葉するとキレイな赤色に色づくことから「錦の木」「ニシキギ」と命名されたそうです。ということは、ここで織られているものは錦織りかもしれませんね。
錦織りとは、いろんな色の糸を使ってキレイな模様を織っていく絹織物のことで、美しく立派なものを指して「錦」と言う場合もあります。ですから、織られている衣は絹製だとも言えそうです。
また、天石屋戸の儀礼シーンにおいて、読み下し文で「天香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて…」と記されている部分、現代語訳では「天香山の鹿の骨を丸抜きにして…」としていますが、その「まをか(真男鹿)」を「もおか」と読み替えてみると、真岡木綿に代表される木綿の要素も感じ取ることができるんですね。
木綿のワタは骨と同じく白色で、鹿の骨を丸抜きするのと同様に、ワタも丸抜きします。絹と木綿、これが神の衣を作るのにふさわしいと古事記は言っているのかもしれませんし、または、ワタの方を絹糸となる蚕の繭を象徴するものとして古事記は用いてるのかもしれません。天石屋戸から出てきたアマテラス、進化した太陽神は蚕のようでもあると言えるからです。どちらにせよ、神々が着るのにふさわしい美しい織物文化の起源を天石屋戸では語っているということですね。
ところで、フワフワの白いワタを見ていてふと思うのは、ワタは糀やスモークツリーとも似ているなということ。もしかしたら天石屋戸の舞台である天香山は、そういったフワフワ要素が集まった場所なのかもしれないですね。
最後に
ということで、以上が天石屋戸シーンに描かれる日本文化の起源三つ、漆文化、発酵文化、織物文化についてのお話でした。これら文化を色で見てみると、漆が赤で、糀と絹もしくは木綿は白で紅白になっていますね。さすが天石屋戸は儀礼のシーンだけあって、めでたい感じがバンバン伝わってきますね。
恐ろしいとされている天石屋戸シーンの裏に、こんなにおめでたい話が隠されていたなんて!物事というのは、一側面だけを見ていては事の本質は掴めない、ということを古事記は教えてくれているのかもしれませんね。
さて、今日は三つの日本文化の起源をお話しましたが、じつは四つ目もあって。それが日本文化の中で最も重要なものだと私は思っているのですが、それについてお話するためには、天石屋戸シーンを構造図で整理しなければいけなくて。その図を使って四つ目の文化をお話したいので、次回は天石屋戸シーンを構造図を使って整理し、そこから読み取れることをお話したいと思います。
それでは今日はここまでです。
ご視聴いただきまして、ありがとうございました。
また次回もぜひ聴いてくださいね。
それではまたお会いしましょう!バイバイ!